船端ふなばた)” の例文
空と水とはまだ暮れそうな気色けしきもみえないので、水明かりのする船端ふなばたには名も知れない羽虫の群れが飛び違っています。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お早うお帰りと、かみさんが、浜に立って赤シャツに挨拶あいさつする。おれは船端ふなばたから、やっと掛声かけごえをして磯へ飛び下りた。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
船端ふなばたには、先刻さっき、街で見付けたと同じような土が一ぱい、苫の中にも多分それが積み込んであることでしょう。
指端したんを弄して低き音のいとのごときを引くことしばし、突然中止して船端ふなばたより下りた。自分はいきなり
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
僕は船端ふなばたに立つたまま、鼠色に輝いた川の上を見渡し、確か広重ひろしげいてゐた河童かつぱのことを思ひ出した。河童は明治時代には、——少くとも「御維新ごゐしん」前後には大根河岸だいこんがしの川にさへ出没してゐた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
船端ふなばたには、先刻、街で見付けたと同じやうな土が一ぱい、苫の中にも多分それが積み込んであることでせう。
高谷君はさらにそれを船端ふなばたへくくり付けて、一種の曳き舟のようにして堤のきわまで曳きよせてもらった。
麻畑の一夜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
喜兵衛は度胸を据えて引き上げさせると、かれは潮水に濡れたままで船端ふなばたに坐り込んで、だしぬけに何か食わせろと云った。云うがままに飯をあたえると、かれは平気で幾杯も食った。
半七捕物帳:32 海坊主 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
過ぎし屋島のたたかいに、風流を好む平家の殿ばらは、船に扇のまとを立てさせ、官女あまたある中にも、この玉虫が選みいだされ、船端ふなばたに立って檜扇をかざし、敵をまねいて射よという。
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)