ふくら)” の例文
出立の時には蕾のふくらみかけてゐた櫻が、すツかり若葉になつて、花吹雪はなふぶき名殘なごりが少し見られるばかりであつた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
早くも「中止」の一喝いつかつひしことなりとぞ、是れには二階の左側に陣取れる一群の反対者も、手をつて哄笑こうせうせしにぞ、警視はほゝふくらしてばし座りも得せざりしと云ふ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
省三はそれを受け執っていながら、こんな世間的なことはつまらんことだが、こんなばあいに酒の一合でも飲めるとふくらみのある食事ができるだろうと思い思い箸を動かした。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
いっそふくらぱぎにかみついてやりたくなるほど、いい様子なんでございまス。
『何を言つてやがるんだよ。』とお大は血走つたやうな目で床屋をねめつけ、肉と血とでふくらんだ頬をいよいふくらましたが、『何とでも言ふがいよ。口は重寶なものさ。』ともう焦燥いら/\して口がけず
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)