脂臭やにくさ)” の例文
私は、私の息が脂臭やにくさくなつて居はしないかと怖れ出した。私はそれが伯父達にかゝらないやうにと常にこまかい注意を払つて居た。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
彼は、その紙幣と同居している脂臭やにくさい物をポケット糞といっしょに探り出した。それは半分の紙巻まき煙草であった。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とうとう、煙草の脂臭やにくさい鼻息に閉口しながらも、親切な爺さんのあやし気な日本回想記をきかされ、途中とちゅうでアイスクリイムまでおごって貰い、合宿まで送り届けられたのでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
面喰めんくらったあわただしい中にも、忽然として、いつぞのむかし吉原の横町の、ずるずる引摺ひきずった青いすそと、あか扱帯しごきと、脂臭やにくさい吸いつけ煙草を憶起おもいおこすと、憶起す要はないのに、独りで恥しくなって
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その日は夏の晴天で、脂臭やにくさ蘇鉄そてつのにおいが寺の庭に充満しているころだったが、例の急な石段を登って、山の上へ出てみると、ほとんど意外だったくらい、あの大理石の墓がくだらなく見えた。
樗牛の事 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
爺さんは安煙草の脂臭やにくさい口をして言つた。