胸裡きようり)” の例文
私はそれを恐れいとふやうに、また美しくも忘れがたい印象を自分の胸裡きようりに守るやうにして、妹の待つ湯の川の宿へと急ぎかへつた。
処女作の思い出 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
逍遙子が胸裡きようりたとひ始より沒却理想ありきとしても、其當時の文を評するものはこれを推察する責あるべうもあらず。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
唯その一旦にしてやすく、又今のむなしき死ををはらんをば、いと効為かひなしと思返して、よし遠くとも心に期するところは、なでう一度ひとたびさきの失望と恨とをはらし得て、胸裡きようりの涼きこと
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
恋愛は各人の胸裡きようりに一墨痕を印して、ほかには見ゆ可からざるも、終生まつする事能はざる者となすの奇跡なり。然れども恋愛は一見して卑陋ひろう暗黒なるが如くに其実性の卑陋暗黒なる者にあらず。
厭世詩家と女性 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
彼は瞑目めいもくしてばし胸裡きようりの激動を制しつ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)