がへん)” の例文
然るに當日寫眞機を携ふる新聞記者は警護の者の制止するをがへんぜずして闖入する事の出來ぬ境にちん入して俳優の演技を撮影せんとした。
十年振:一名京都紀行 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
然るにこれを受けたものが多く紙価を寄せてこれに報いた。達夫等は刻費をつぐのつて余財を獲、霞亭に呈した。霞亭は受くることをがへんぜなかつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
新公は亦さう云ふ羽目にも、彼女が投げ出した体には、指さへ触れる事をがへんじなかつた。その動機は何だつたか、——それも彼女は知らなかつた。
お富の貞操 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ロダン翁だけは多年此処ここで製作し慣れて気に合つた家であり、又何かと老芸術家の心に思ひ出も深い家であるから立退たちのく事をがへんぜずに今日けふまで住んで居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
造化ネーチユアは人間を支配す、然れども人間も亦た造化を支配す、人間の中に存する自由の精神は造化に黙従するをがへんぜざるなり。造化のちからは大なり、然れども人間の自由も亦た大なり。
内部生命論 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
併し彼はお雪伯母が頻りに勧めるにも拘らず、家の入口や便所の位置を換へることをがへんじなかつた。多少の負け惜しみもあつたが、尚行者の言ふことには半信半疑であつたのである。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
常に不幸であることをがへんじて以来、僕は誠に幸福だ。僕には欠けてゐるものが多い、巨万の富の豁達さも、世の恋人達の愛情も、放蕩者の快楽慾も僕にはなかつたと、さう君は思はないか。
寄住者は永久に退去するをがへんぜざるものゝ如し。
しかしその嫉妬や羨望を自認することはがへんじなかつた。それは彼等の才能を軽蔑してゐる為だつた。けれども貧困に対する憎悪は少しもその為に変らなかつた。
それは幕政の局に当つて財況其他の実情を知悉し、夷のはらふべからず、戦の交ふべからざることを知つてゐたからである。しかし此に於ては漢方より洋方に遷ることをがへんぜなかつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
まれ」の声と共に決闘は終つた。医師は急いで両君に繃帯を施し、立会人等は官衙くわんがへ差出す始末書をしたゝめて署名した。しかしカイアヹエ君とマス君とはこの決闘につて満足するをがへんじない。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)