そびやか)” の例文
その正面に当ってあたかも大きな船の浮ぶがように吉原よしわらくるわはいずれも用水桶を載せ頂いた鱗葺こけらぶきの屋根をそびやかしているのであった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と細い聲で、靜に、冷笑的に謂ツて、チラと對手あひての顏を見る。そしてぐいと肩をそびやかす。これは彼が得意の時にく行る癖で。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
失わず「御笑談ごじょうだんさるな私しが何をしました」目科は肩をそびやかして「これ/\今と成て仮忘とぼけてもいけないよ、其方が一昨夜梅五郎老人を殺し其家を出て行く所を ...
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
心持くびを前の方に出して、胡坐のひざへ片手をぎゃくに突いて、左の肩を少しそびやかして、右の指で煙管を握って、薄いくちびるの間から奇麗きれいな歯を時々あらわして、——こんな事を云った。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
という、変梃へんてこ捨科白すてぜりふを残しながら三人は、無理に肩をそびやかして出て行った。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それにもかかわらず寺院は今なお市中何処いずこという限りもなく、あるいは坂の上がけの下、川のほとり橋のきわ、到る処にその門と堂の屋根をそびやかしている。
日本橋の図は中央に擬宝珠ぎぼうしゅそびやかしたる橋の欄干と、通行する群集の頭部のみを描きて図の下部を限り、荷船の浮べる運河をはさんで左右に立並ぶ倉庫の列を西洋画の遠近法にもとづきて次第に遠く小さく
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)