羞恥心しゅうちしん)” の例文
どういうふうにかということを、酔って羞恥心しゅうちしんをなくしたさくらは、身振りを入れながらあけすけに語った。功兵衛は聞いてはいなかった。
醜聞 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それによってもおたがいの羞恥心しゅうちしんというようなものには、全く相触れず、相知れざる形になっていることであります。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
佐山 いや——(この男に残っていた羞恥心しゅうちしんが、はじめて表に出て来て、破れて腰のまわりにさがっていたズボンのきれを、あわてて引っぱって、股をおおう)
胎内 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
瑠璃子は、処女らしい羞恥心しゅうちしんを、興奮のために、全く振り捨てゝしまったように、叫びつゞけた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
もっとも、それは腹の黒い嘲笑ではなくただ皆にとってそれが楽しいからであった。この変わった性質というのは、野性的な、夢中になるほどの羞恥心しゅうちしんと潔癖とであった。
一応否定したり羞恥心しゅうちしんくぼめて見るのを、かの女のスローモーション的な内気と、どこ迄一つのものかは、はっきり判らなかったが、かの女は自分の稚純極まる内気なるものは
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
人々は己を倨傲きょごうだ、尊大だといった。実は、それがほとん羞恥心しゅうちしんに近いものであることを、人々は知らなかった。勿論もちろん、曾ての郷党きょうとうの鬼才といわれた自分に、自尊心が無かったとはわない。
山月記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
先生が石太郎の席に達するまでのみじかい時間を、春吉君の中で正義感と羞恥心しゅうちしんとが、めまぐるしい闘争をした。それが春吉君の動悸どうきを、鼓膜こまくにドキッドキッとひびくほど、はげしくした。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
「——人間である限り学問や教養がなくとも、自分をよくしようという本能や、不倫な行為に対する自責、羞恥心しゅうちしんぐらいある筈ではないか」
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
回復してくると、左様な商売人とはいえ、やっぱり、女の羞恥心しゅうちしんというものが一番先に目覚めてくるらしい。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いいかげん酔ってもきたし口惜しさが羞恥心しゅうちしんに勝ったのだろう、彼はぐいと前こごみになってこう云った
恋の伝七郎 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それから一種の羞恥心しゅうちしんというようなものにられ、我知らず面をあからめて、だまってしまいました。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この「街」のかみさんたちは、顔のあざを見られたくないからであろう、と云っているが、そんな女らしい羞恥心しゅうちしんからでないことは、良人の島さんがよく知っているようであった。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかるべき才貌兼備の婦人をたずねよとは少々キマリが悪いと、白雲はがらにもない羞恥心しゅうちしんを少しく起しながら、とにかく、名前だけも覚えて置くことだと、更に念を押すと、栄翁が答えて
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)