羊腸ようちょう)” の例文
背中のスウッとする冷たさが、むらさきの山気とともに流れて、羊腸ようちょうたる小みちを登るにつれて、城下町の屋根が眼の下に指呼される。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
旌旗せいき色なく、人馬声なく、蜀山の羊腸ようちょうたる道を哀々あいあいと行くものは、五丈原頭のうらみを霊車にして、むなしく成都へ帰る蜀軍の列だった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
道は、山が高く頭上を圧し、谷が羊腸ようちょうとして下をめぐっている。谷の底から実に鮮かな炎が、紫色の煙と共に吹き上げている。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ましてや人は山に住んでも寂寞せきばくいとい、行く人に追付き、来る人に出逢おうとつとめるから、自然に羊腸ようちょうが統一するのである。
峠に関する二、三の考察 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
丁度三日目の朝のこと、僕たちは山荘を一緒に出て、羊腸ようちょうの小径を湖岸へ抜け、そこで右へ行き、小瀬川を少し川上へ歩いたところで釣を始めました。
密林荘事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
路は羊腸ようちょうの小径とまでゆかないが山腹を登り谷間に下り、点々と散在する家をつなぐ。
長崎の鐘 (新字新仮名) / 永井隆(著)
彼はそのあらゆる道を進んだ。ある道は羊腸ようちょうとして木陰にたゆたっていた。ある道は日にさらされて険峻けんしゅんな坂をなしていた。そしてそのすべてが、山頂に鎮座してる神へ達するのだった。
中は羊腸ようちょうたる抜け裏、娘の姿は本当に虹のように蒸発してしまったのでした。
そして濛々もうもうと白い蒸雲じょううんのたちめぐる千山万水。大陸の道は、その中を羊腸ようちょうと果てなくうねッているが、村里人煙は、それを見ぬこと、二日であった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その声を聞きつけると、武士はズカズカと萩原街道の方へ進んで、松の木立から身を斜めにして見おろすと、羊腸ようちょうたる坂路のうねりを今しも登って来る人影は、たしかに巡礼の二人づれであります。
羊腸ようちょうたる道を静かにひづめの音が辿る。馬上の侍は懐中ふところから一冊の古書を取りだして読み初めた。チラと下から表紙をのぞくと、「剣秘不識篇けんぴふしきへん」としてある。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
羊腸ようちょうたる山谷の道を、蟻のように辿たどってゆく車駕や荷駄や大兵の列が見える。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
土人にきけば「夾山きょうざん羊腸ようちょう」とよぶ所だとある。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)