繊維せんい)” の例文
旧字:纖維
ところが不思議なことには、一番細い繊維せんいを使って、感度を極端きょくたんにあげた象限電位計が、ここでは、半年もすると誰にでも使えるようになるのであった。
実験室の記憶 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
平常の理論は「勘」の繊維せんいをなしてはいるが、その知性は緩慢であるから、事実の急場には、まにあわない知性であり、ために、敗れることが往々ある。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それも今時いまどきに珍しい原始的な方法で、吉野川の水にこうぞ繊維せんいさらしては、手ずきの紙を製するのである。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いまはすっかり青ぞらにかわったその天頂てんちょうから四方の青白い天末てんまつまでいちめんはられたインドラのスペクトルせいの網、その繊維せんい蜘蛛くものより細く、その組織そしき菌糸きんしより緻密ちみつ
インドラの網 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
こまかい柄が必ずしも美しくなく、高価なものが必ずしも上等ではないことを、よく悟るべきではないでしょうか。これらの織物には絹も麻も木綿もまた桐板とんびゃんと呼ぶ繊維せんいも用いられました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
その草は毒草で根もやはり毒です。その根は白い色で繊維せんいが沢山ある。その繊維でもって紙を製造します。紙質は随分強いが真っ白な紙はない。少し黒くって日本の塵紙ちりがみのようなものである。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
この響き、この群集の中に二年住んでいたらが神経の繊維せんいもついにはなべの中の麩海苔ふのりのごとくべとべとになるだろうとマクス・ノルダウの退化論を今さらのごとく大真理と思う折さえあった。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何かの繊維せんいが、あたまの中の交織機に織りこまれ、それが一週間ごとに、一幅の布地になって机から離れてゆくことは、大げさにいえば、つい寝食も忘れてしまう楽しさである。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
津村はその中に通っている細かい丈夫じょうぶ繊維せんいの筋を日にかして見て
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)