いと)” の例文
レットが、そのいとを引っぱる速度がゆるむと、それは、ハンドルによって止められる、そしてそのワイアの長さが、そこで読まれる。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
ひもも、紙鳶に相応ふさはしい太いいとだし、それがかれてあるわくも、子供では両手で抱へてゐなければならぬ程、大きな立派なものである。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
中には茲で縁談のいと口を開く紳士も有ろう、情人と細語ささめごとする婦人もないとは限らぬ、併し余が秀子を尋ねて此の室へ入った頃は猶だ舞踏が始まったばかりの所ゆえ誰も来て居ぬ
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
そうして、今まで退屈し切っていた心のいとが、急に張りきったのを感じたようです。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
家持は、一度はぐらかされたいと口にとりついた気で
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
二人はいときとるわくが、すごいきほひで、からんからんと畠の上を跳びながら、走つていくのをぽかんと見てゐた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
たこいとのようなワイアを引っぱってレットは、ガラガラッと船尾から、逆巻く、まっ黒な中に、かみつかんばかりに白いあわを吐く、波くずの中へと突進した。デッキの最高部はきわめて狭かった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
そんなら彼はこんなに、いとを伸ばしてしまふべきではなかつたらう。突然、ぐんと役者はひつぱつた。まるで牛のやうな力で。新太郎ちやんは、つんのめつて、畝に足をとられ、転んだ。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)