かた)” の例文
寛文かんぶん十一年の正月、雲州うんしゅう松江まつえ祥光院しょうこういん墓所はかしょには、四基しきの石塔が建てられた。施主はかたく秘したと見えて、誰も知っているものはなかった。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
三尺をまた半分にした、ようようからだのはいられるだけの小さい潜戸くぐりは、まだ日も暮れぬのに、かためきって、留守かと思うほどひっそりしている。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
それは前にも書いたとおり、しいても他人に対する愛情を殺す事によって、倉地との愛がよりかたく結ばれるという迷信のような心の働きから起こった事だった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
以前漁夫の娘として自由にのび、海風でそだて上げられた豐滿な美しい輪郭を備へた彼女の姿勢は、令孃等の長いコルセツトで、腰のところで、かたく締められた。
火をおこして置きますのも、雨の洩らぬやうに茅葺をかたくして置きますのも、遠い林の中へ風に吹飛されませぬやうに茅葺きを丈夫にして置きますのも、皆私の勤でございます。
が、大殿様はかたく唇を御噛みになりながら、時々気味悪く御笑ひになつて、眼も放さずぢつと車の方を御見つめになつていらつしやいます。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ふるへながら、それが感情の激動を強ひて抑へようとするせゐか、膝の上の手巾を、両手で裂かないばかりにかたく、握つてゐるのに気がついた。
手巾 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いや、それと同時に長い睫毛まつげの先へ、涙を一ぱいためながら、前よりもかたく唇を噛みしめてゐるのでございます。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
杜子春は必死になつて、鉄冠子の言葉を思ひ出しながら、かたく眼をつぶつてゐました。するとその時彼の耳には、ほとんど声とはいへない位、かすかな声が伝はつて来ました。
杜子春 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
杜子春は必死になって、鉄冠子の言葉を思い出しながら、かたく眼をつぶっていました。するとその時彼の耳には、ほとんど声とはいえない位、かすかな声が伝わって来ました。
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それはかたくむすんでゐた彼の唇が、この時急にゆるんだのを見ても、知れる事であらう。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
さうして、かたく筆を握りながら、何度もかう自分に呼びかけた。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)