簇生そうせい)” の例文
右を見ても左を見ても箆を束ねたように簇生そうせいした篁の中では、眼なんか無くとも一向差支はない、有れば近眼でも遠視眼でも持ち合せの者で沢山だ。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
少しおくれて、それまでは藤棚から干からびた何かの小動物の尻尾のように垂れていた花房が急に伸び開き簇生そうせいしたつぼみが破れてあでやかな紫の雲を棚引かせる。
五月の唯物観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかし、月日などはともかく、この事実は、当時の鎌倉にも、景茂みたいな戦後派が、もう簇生そうせいしていたことがよく分かっておもしろい。(「新・平家」では景家)
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平等を欠いたそれらの事実は総て「人類の幸福の増加」のために無用または有害な事実ばかりであり、それに由って世界の調子を失い、進歩を遅滞し、悲惨を簇生そうせいしている。
母性偏重を排す (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
そんなところに偶々たまたまシメジと呼ぶ白い茸が早く簇生そうせいしていることがあるので、注意深い眼を見張って桜の幹に片手をかけつつ、くるりと向うへめぐって行く粂吉を見ることがある。
茸をたずねる (新字新仮名) / 飯田蛇笏(著)
……先輩、後輩、関係、背景、そして紹介状、……むこうに行ってはすべり、こっちへ来てはころび、……いわく何系、曰く何団体、曰く何派、曰く何、……まるで簇生そうせい植物のようだ。
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
文学論にしろ、堅固周密な円形城壁のようだが、真中がスポンとぬけていて。すべての分析がそれぞれの線の上でだけ延ばされているから、簇生そうせいしていて相互関係の動きと根本に統一がない。
一面に簇生そうせいして来た。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
近づいたとき見ると、男の顔には、なんという皮膚病だか、葡萄ぶどうぐらいの大きさのいぼが一面に簇生そうせいしていて、見るもおぞましく、身の毛がよだつようなここちがした。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
はじめは草地で、次に岩石の露出した痩尾根となり、偃松石楠大米躑躅などが岩間に簇生そうせいしている。
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
とにかくうすら寒い時候に可愛らしい筍をにょきにょきと簇生そうせいさせる。引抜くと、きゅうっきゅうっと小気味の好い音を出す。軟らかい緑の茎に紫色の隈取くまどりがあって美しい。
郷土的味覚 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
なしの葉に黄色いができて、毛のようなものが簇生そうせいする。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)