竪皺たてじわ)” の例文
左の頬に深い竪皺たてじわがより、唇はやわらかくむすばれている。坐った姿勢も、顔の表情も、平常どおり柔和でゆったりとおちついていた。
レエヌさんは、熱が出てきたのらしく、眉の間に竪皺たてじわをよせ、苦しそうにあえぎながら、おぼろな声で囈言うわごとをいっていた。
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
叔父は、額に深い竪皺たてじわを寄せ部屋の中をぐるぐる歩きはじめた。この癖も中野の記憶にあった。叔父は何か考え事があると昔もよくそうしていた。
地図にない島 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「えーい、君少し注意したまへ!」と色を失つて飛んで来た川島先生は肺腑はいふを絞つた声で眉間みけんに深い竪皺たてじわを刻み歯をがた/\ふるはして叱つたが、頬を流れる私の涙を見ると
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
船長のひたいに深い竪皺たてじわ這入はいった。コメカミがピクリピクリと動いた。当惑した時の緊張した表情だ。こうした場合の、そうした船員の気持が、わかり過ぎる位わかっているんだからね。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
阿賀妻は眉間みけん竪皺たてじわをよせて立ちどまった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
冷たい水で洗ったために、彼の日にやけた顔は活き活きと赤く、頬も固く緊張して、いつも見馴れた竪皺たてじわが消えていた。
無精髯ぶしょうひげが伸びほうだいに顔じゅうにはびこり、陽に焼けた眉間みけんや頬に狡猾こうかつの紋章とでもいうべき深い竪皺たてじわがより、ほこりあかにまみれて沈んだ鉛色なまりいろをしていた。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
甲斐の左の頬にふかい竪皺たてじわがよった。甲斐はかすかに唇で笑い、ごくさりげなく、それは光栄であると云った。
生れてからまだ笑ったことがないという苦ッ面の眉間に竪皺たてじわをよせてムンズリと膝を折ると
顎十郎捕物帳:05 ねずみ (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
両の頬に竪皺たてじわが刻まれ、唇がきっとひき緊り、呼吸が深く大きくなった。
すると頬に深い竪皺たてじわがより、唇の間から僅かに歯が見えた。