童貞どうてい)” の例文
初めに書いた、かつてぼくの童貞どうていとやらに興味を持ったN子という女給もいれば、松山さんも沢村さんの女達もいるカフエでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
あの遠藤盛遠から、初めて、母の実体を聞かされた晩に、かれは、惜しみもなく、遊女宿あそびやどの女へ、二十歳はたち童貞どうていを、うっちゃるように、くれてしまった。
己も満更好奇心が起らぬ事はないのだが、何だか恐ろしいような気がするし、格別其の方面には激しい慾望も起らないので、とうとう今日こんにちまで童貞どうていを守って居る。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
もつとも一切の社会的覊絆きはん蹂躙じうりんして、その女と結婚する事が男らしい如く、自分の恋を打明けずにおくのも男らしいと云ふ信念から、依然として、童貞どうていを守りながら
創作 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そられたる斷食だんじきの日、尼寺あまでら童貞どうていこぞりて運河に船の行くを眺めたり。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
それがウルスラ上人と一万一千の童貞どうてい少女しょうじょが、「奉公の死」を遂げた話や、パトリック上人の浄罪界じょうざいかいの話を経て、次第に今日の使徒行伝しとぎょうでん中の話となり、進んでは、ついに御主おんあるじ耶蘇基督エス・クリスト
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして、それが、ぼくが好きだというより、ぼくの童貞どうていだという点に、迷信めいしんじみた興味をもち、かつ、その色白で、瞳のすずしい彼女かのじょが、先輩Kさんの愛人である、とも、きかされていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
そんなことから方々に岡惚おかぼれを作った。「遊ぶ」と云う評判も取った。けれども元来が母恋いしさから起ったのに過ぎないのだから、一遍いっぺんも深入りをしたことはなく、今日まで童貞どうていを守り続けた。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
圓天井まるてんじやうした、閉ぢたる廣間ひろまの内、童貞どうていの刑に就くを眺むる如きもあり。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)