立役たちやく)” の例文
松島屋——現今の片岡我童かたおかがどうの父で人気のあった美貌びぼう立役たちやく——を一緒にしたようなおかおだとひそかにいいあっていたのを聞覚えている。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
もとの吉田玉造よしだたまぞうとか桐竹紋十郎きりたけもんじゅうろうとか言ったような老人が上下かみしもけて、立役たちやくとか立女形たておやまとかの人形を使っておったものであるが
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
そこへ持って来て人形の身の丈が、———殊にその首が、大阪のよりもひときわ大きく、立役たちやくなぞは七つ八つの子供ぐらいはありそうに思える。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そりゃあ貴方あなた、わたくしだって、人を縛るばかりが能じゃあない。時にはこういう立役たちやくにもなりますよ。はははははは
半七捕物帳:60 青山の仇討 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
けれど平家物語は政治小説ではないから、物語構成上の主要人物は、かつては清盛、頼朝、そして義仲となり、次いで義経と、時の推移と共に立役たちやくも代ってゆく。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お前に聞いた時あ、たいした立役たちやくだったが今のザマじゃあんまりそうでも無えや。好かねえ野郎だ。
中山七里 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
わたくしの役はあんまい役じゃアありません、芝居だとつッころばしで家橘かきつ我童がどう小團次こだんじどこの役で、今考えると面白いが、旦那は立役たちやくで、うしろから出て笠をって舁夫をほうり出して
『絵本舞台扇』をひもとくものは春章は専ら立役たちやくまた実悪じつあくの俳優を描き
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「と、いよ/\立役たちやくで売るつもりかしら、若宮君?」
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
かれは明治二十年の春から名題なだい俳優の一人となっていたが、とかく不遇の地位に置かれがちで、一時は立役たちやくをやめて女形おんながたに転じたいと言っていたそうであるが
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
同座の「恋闇鵜飼燎こいのやみうかいのかがりび」で、お夏という商家の娘などで、勿論そのほかにいろいろの立役たちやくも勤めていたのであるが、かれが好評を博した役々はいつも娘形であったらしい。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
藤沢はともかくも脚本の作が出来て、女形が出来て、立役たちやくも出来るのであるから、この一座に欠くべからざる重要の人物であったばかりでなく、世間の人気もまた彼にあつまっていた。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)