眩暈げんうん)” の例文
彼は椅子いすの上に身を落とし、頭と両腕とを寝台の上に投げ出し、とらえ所のない考えのうちに沈み、あたかも眩暈げんうんでもしてるかのようだった。
すると、白い壁や天井がかすかに眩暈げんうんを放ちだす、あの熱っぽいものが、彼のうちにもうずきだした。彼はそっと椅子を立上って窓の外に出る扉を押した。
秋日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
それは、瀬川安子の登場を契機として出現した。色彩と音響との眩暈げんうん感にみちた不思議な一世界であつた。
少年 (新字旧仮名) / 神西清(著)
又、むさくるしき三等船室の中に、漲ぎりわたる一種名状すべからざる異様の臭気を吸ふて、遂に眩暈げんうんを感じ、逃ぐるが如く甲板に駈け上りたるも我とこの帽子也。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
呉一郎が悪夢を見たりという事実と、覚醒後の頭痛、眩暈げんうん、悪寒、口臭、嘔気おうき等を感じたる事実等を綜合して、麻酔剤の使用を疑われたる事は一面の理由あるものの如し。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いかに深い闇の中に落されて行っても少しの眩暈げんうんをも催すことなく瞬きせざる眼をもって自分自身を見詰めて恐れない強い心において正しき自己認識は可能となるのである。
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
藥水やくすゐ飮干のみほすとやがて眩暈げんうんしたる思入おもひいれにて、寢臺しんだいうへとばりうちたふむ。
かの金色こんじき眩暈げんうんを避け難き人は
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
羊毛と鋭き香気の眩暈げんうんと。
彼は眩暈げんうんを覚えた。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
ここに問題は、言わば数限りないなぞに分かれ、深淵しんえんの下に更に深淵が開けてきて、マリユスはもはや眩暈げんうんを感ぜずにはジャン・ヴァルジャンの方をのぞき込むことができなかった。
蒼空あおぞらに消え去るにはなおあまりに人間の性を帯び、震盪しんとうを待つ原子のように中間にかかり、見たところ運命の束縛を脱し、昨日と今日と明日との制扼せいやくを知らず、感激し、眩暈げんうんし、浮揚し
それらの大なる苦熱は大なる幻を作り出す。彼は自ら問い、自ら憶測し、消えうせたそれらの現実に対して眩暈げんうんを感じた。彼らは皆どこにいるのか。皆死んでしまったというのは真実であるか。
最も高きものより最も低きものに至るまで、あらゆる活動を眩暈げんうんするばかりの機械的運動の暗黒中に紛糾させ、昆虫こんちゅう飛翔ひしょうを地球の運動に結びつけ、大法の一致によってなすや否やはわからないが