真葛まくず)” の例文
旧字:眞葛
私は、山の方に上がってゆく静かな細い通りを歩いて、約束の、真葛まくずはらのある茶亭の入口のところに来てしばらく待っていた。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
真葛まくずはら女郎花おみなえしが咲いた。すらすらとすすきを抜けて、くいある高き身に、秋風をひんよくけて通す心細さを、秋は時雨しぐれて冬になる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ふん、そうかそうか、かどわかされて、それから浜松の小屋になる。———とすると『真葛まくずヶ原の段』と云うのがありゃしなかったかい?………ねえ、お前、………」
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
先ずあれにするには西京さいきょう真葛まくずはらの豆が一番上等です。大阪のあまさき辺の一寸豆いっすんまめもようございます。上州沼田辺の豆も大きいそうですが新豆のしたのなら一昼夜水へ漬けます。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
はからずも癩瘡らいそうを病んで膿血うみち五臓にあふれ、門徒の附合もかなはず、真葛まくずはらで乞食をして年を経たところを、南蛮宗ウルガン和尚の手に救はれ、ねんごろな投薬加療その験あつてたちまち五体は清浄となる。
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
山端平八、真葛まくず句会。
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
真葛まくずはら
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たださえ京はさびしい所である。原に真葛まくず、川に加茂かも、山に比叡ひえ愛宕あたご鞍馬くらま、ことごとく昔のままの原と川と山である。
京に着ける夕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御承知の大雅堂たいがどうでも今でこそ大した画工であるがその当時ごうも世間向の画をかかなかったために生涯しょうがい真葛まくずはら陋居ろうきょひそんでまるで乞食と同じ一生を送りました。
道楽と職業 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)