相対あいむか)” の例文
旧字:相對
ことばはしばし絶えぬ。両人ふたりはうっとりとしてただ相笑あいえめるのみ。梅の細々さいさいとして両人ふたり火桶ひおけを擁して相対あいむかえるあたりをめぐる。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
辰弥も今は相対あいむか風色ふうしょくに見入りて、心は早やそこにあらず。折しも障子はさっと開きて、中なる人は立ち出でたるがごとし。辰弥の耳は逸早いちはやく聞きつけて振り返りぬ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
蘆の姿も千代子の姿もさらに見えない、三等室に入って窓の際に小林と相対あいむかってすわった。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
我がいさましき船頭は、波打際の崖をたよりに、お浪という、その美しき恋女房と、愛らしき乳児ちのみを残して、日ごとに、くだんかどの前なる細路へ、とその後姿、相対あいむかえる猛獣の間に突立つったつよと見れば
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それと相対あいむかって死人の怨恨を述べる女の影。音もなく廻転する時計。ひらひらと瞬く電燈のタングステン。向うをむいて立っている裸体美人の絵像。それを睨み付けている骸骨。机。書物。壁。床。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
相対あいむかいて、浪子は美しき巾着きんちゃくを縫いつつ、時々針をとどめて良人おっとかた打ちながめてはみ、風雨の音に耳傾けては静かに思いに沈みており。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
たちまち武男は無手むずとわが手を握られ、ふり仰げば、涙を浮かべし片岡中将の双眼と相対あいむかいぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)