盲亀もうき)” の例文
例えば釈迦の引いた譬喩ひゆ盲亀もうき百年に一度大海から首を出して孔のあいた浮木にぶつかる機会にも比べられるほど少なそうであるが
小さな出来事 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
これぞ当時は八九分通り開けて居りますが、小笠原島おがさわらじまでございます。文治は盲亀もうき浮木うきぎに有附きたる心地して
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかし、一族大勢がやってきて、だんだんに智深の説得を聞き、盲亀もうき浮木ふぼくで、ついに彼の策にすがった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、女の方では、そんなこととは知らないから、世にも手頼りない身の盲亀もうきの浮木に逢った気で、真心籠めて小平太につかえる。小平太もそうされて嬉しくないことはない。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
それでは阿波あわ鳴門なるとうずに巻込まれて底へ底へと沈むようなもんで、頭の疲れや苦痛に堪え切れなくなったので、最後に盲亀もうき浮木ふぼくのように取捉とりつかまえたのが即ちヒューマニチーであった。
二葉亭追録 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
盲亀もうき浮木ふぼく優曇華うどんげの花、お蔭で目的を果したという鄭重なお礼状が来た。しかしそれから一月ばかりして、僕は或る朝役所で官報を開くと同時に吃驚びっくりした。野口君の休職辞令が出ていたのである。
首切り問答 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
身は緑林りょくりんにおき、才は匹夫ひっぷ、押して申しかねますなれど、きょうの日は、てまえにとって、実に、千ざいの一ぐうといいましょうか、盲亀もうき浮木ふぼくというべきか、逸しがたい機会です。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)