盤石ばんじゃく)” の例文
家をまもる陰鬱な虫の盲目もうもくの希いが、天皇は自分であるということを、てんから不動盤石ばんじゃくに、疑らせもしなかったのだ、と。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
盤石ばんじゃくのごとく動かない魏軍に対して、孔明がここにやや焦躁しょうそうの気に駆られていたことは否めない事実であったろう。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戈鋋剣戟くわえんけんげきを降らすこと電光の如くなり、盤石ばんじゃく岩をとばすこと春の雨に相同じ、然りとはいへども天帝の身には近づかで、修羅しゅらかれがために破らると……」
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼はおどろいて砂の中から立ち上ろうとしたが、女は盤石ばんじゃくのように上から押しつけていて、帆村の自由にならない。その上、女の指は頸をギュウギュウしめつけてくる。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
三造は重いひさしの下に入って、背に盤石ばんじゃくを負いながら、やっとおんなの肩際にしゃがんだのである。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは普通第一石とは遠く離れた碁盤の他の隅に置かれようともはるかに第一石をにらまえ、我われ凡手には考察しきれぬ複雑な戦略的理由によって盤石ばんじゃくのごとく動かしがたく据えられるのである。
独り碁 (新字新仮名) / 中勘助(著)
正義、法律、お金で買えます。良心、貞操、むろんの事だよ。自由民権手段を撰ばず。掴んで離さぬ熊鷹くまたか根性の。億万長者の一流どころが。国の利益は自分の利益と。盤石ばんじゃく動かぬ算盤そろばんずくめで。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
見えるはずはないのに、天井の上を真黒な天が盤石ばんじゃくの重さで押しつけているのが、はっきり判る。いよいよ天井が近づき、堪え難い重みが胸を圧した時、ふと横を見ると、一人の男が立っている。
牛人 (新字新仮名) / 中島敦(著)
卓の下から、手足をもがき出しながら、彼がののしり騒いでいると、その声に吃驚びっくりして、裏口と表から、二人が駈けこんで、盤石ばんじゃくのような大卓を持ち上げた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
絶望の叫びで土方は島田のために太刀を打ち落されてたじろぐところを、犬の子をころがすように引き倒され、起き上ろうとした時は、島田の膝は背の上にさながら盤石ばんじゃくを置いたようです。
盤石ばんじゃくいわおを飛ばすこと春の雨に相同じ。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
新九郎は南無三と、渾力こんりきをこめて振りほどこうとしたが、小六の力は盤石ばんじゃくの如く彼に動きも取らせなかった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
堀部、奥田、不破、原などの方々へも、今の盤石ばんじゃくのような御忍苦を
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)