盈々なみなみ)” の例文
植源の庭には、大きな水甕みずがめが三つもあった。お島は男の手の足りないおりおりには、その一つ一つに、水を盈々なみなみ汲込まなければならなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
大きい花崗石みかげいしの台に載つた洗面盥には、見よ見よ、こぼれる許り盈々なみなみと、毛程の皺さへ立てぬ秋の水が、玲瓏れいろうとして銀水の如く盛つてあるではないか。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
はずみに乗せられて貫一は思はずうくるとひとし盈々なみなみそそがれて、下にも置れず一口附くるを見たる満枝が歓喜よろこび
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
顔を洗つてから、可成なるべく音のせぬ様に水を汲み上げて、盥の水を以前もとの如く清く盈々なみなみとして置いて、さて彼の一片の小扇をとつて以前の如くそれに浮べた。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
薮畳やぶだたみを控えた広い平地にある紙漉場の葭簀よしずに、温かい日がさして、かぞを浸すために盈々なみなみたたえられた水が生暖なまあたたかくぬるんでいた。そこらには桜がもう咲きかけていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
盈々なみなみと酒をれたる二つの猪口は、彼等の目より高く挙げらるるとひとしかつ相撃あひうてば、くれなゐしづくの漏るが如く流るるを、互に引くより早く一息ひといきに飲乾したり。これを見たる佐分利は甘糟の膝をうごかして
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)