疵物きずもの)” の例文
皿茶碗の疵物きずものならば、きずのわかり次第棄てても仕舞しまおうが、生きた人間の病気は、そのようなものと同列には考えられぬ。袖振り合うも他生たしょうの縁とやら。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
拔かれて疵物きずものになつて居るから、庄司の主人にも弱身があるから、オイそれとはあの歡喜天をお目にかけられない
「それは高い。なかのつまった花瓶なんて、やっぱり疵物きずものも同様ですから、その半分ぐらいでなくちゃ……」
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
日本にては杖は下駄同様に取上げらるるが故銀細工象牙ぞうげ細工なぞしたるものはたちまち疵物きずものになさるるおそれあり。
洋服論 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
お母さんは余所よその娘さんを預かっていて疵物きずものにしては申訳がないと思ったから、一緒に山口さんへ出掛けた。山口さんはかかりつけの歯医者で、頗る剽軽ひょうきんな人だ。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
立派な山を疵物きずものにして、車を仕掛けなければならない理由が七兵衛には少しもわかりませんから、コイツ山師共が、何かの口実で、木を伐って金儲かねもうけをするのだなと思い込んでしまいました。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
だから疵物きずものでもずん/\片づいて行く。尤も疵物は大抵貧しい者にやられる。潔癖は贅沢だ。貧しい者は、其様な素生調すじょうしらべに頓着しては居られぬ。金の二三十両もつければ、懐胎かいたいの女でももらう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
疵物きずものであって、廃物だと答えるまでだ。
古器観道楽 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
預かって、疵物きずものにして返した上、押掛け婿などに行かれては、植幸の面目が立たないだろうじゃないか
と河合君は言いにくそうに切り出した。僕はハッと思った。余りスル/\ッと簡単に定ったから、澄子さんは美貌にもかゝわらず、疵物きずもので、何か身体に故障があるのかと疑ったのである。
合縁奇縁 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「ところが、さう言ふわけに行かないといふのは、可哀想にお豊は疵物きずものなんださうですよ」
「病癖があるんですから、一種の疵物きずものです。僕もこれまでの縁と思って諦めます」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)