田夫野人でんぷやじん)” の例文
世の中で何の名もなく位もないいわゆる田夫野人でんぷやじんであっても、その思うところ欲するところは王侯貴族に劣らぬものが沢山ある。
自由の真髄 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「ここにおわせられるは、ただびとではないぞ。よも、なんじらとて、文盲の田夫野人でんぷやじんでもあるまいが」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
内の……内の……雅之まさゆきのやうな孝行者が……先祖を尋ぬれば、甲斐国かいのくにの住人武田大膳太夫たけだだいぜんだゆう信玄入道しんげんにゆうどう田夫野人でんぷやじんの為に欺かれて、このまま断絶する家へ誰が嫁に来る。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「大いに将来をいましめてやったよ。『君は日本の最高学府で教育を受けて而もボートの選手チャンだったじゃないか? 田夫野人でんぷやじんの車掌に打ちのめされて口惜しくはないか?』ってね」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
つまり幸太郎の田夫野人でんぷやじんぶりをあたりにはばかって、あきらかに当惑していた。
狂い凧 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
妻の手前ながら定めて断腸だんちょうの思いなりしならんに、日頃耐忍たいにん強き人なりければ、この上はもはや詮方せんかたなし、自分は死せる心算しんさんにて郷里に帰り、田夫野人でんぷやじんして一生を終うるの覚悟をなさん。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
これを思えば道すなわち道徳はそのせい高くしてそのよう低く、その来たるところ遠くして、その及ぼすところ広く、田夫野人でんぷやじんも守りるものであるらしい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
父という仏も、察するに、ただ田夫野人でんぷやじんではなかろう。由縁よしある者の末にちがいはない。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むなく前言を取り消して、永く膝下しっかにあるべきむねを答えしものから、七年の苦学を無にして田夫野人でんぷやじんと共に耒鋤らいじょり、貴重の光陰こういん徒費とひせんこと、如何いかにしても口惜しく、また妾の将来とても
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「ほんとだ。……下手人のわし自身でも信じられん。だが、やってしまった。人間とは、あてにならないものだなあ。ああ、日頃の知識などは役にも立たんものだなア。おれも田夫野人でんぷやじんと何ら変るところのない物騒な人間だった」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)