現身うつせみ)” の例文
おおよそ現身うつせみのこのわが世間に、幽顕の二道あり。顕事は掛けまくもかしこ天皇命すべらみこと、これをしろしめし、幽事は大物主神おおものぬしのかみしろしめせり。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
胸も胴も腰部も、現身うつせみのようになまめいて、薄闇のなかに艶麗えんれいな姿で立っている。あたかも金堂の壁画から抜け出してきたようにもみえる。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
そんな時朝鮮の鈴は、喬の心をふるわせて鳴った。ある時は、喬の現身うつせみは道の上に失われ鈴の音だけが町を過るかと思われた。
ある心の風景 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
現身うつせみと念ひし時に取持ちて吾が二人ふたり見し』云々、『恋ふれども逢ふよしをなみ大鳥の羽易はがひの山に』
人麿の妻 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
現身うつせみかずなきなり山河やまかはさやけきつつみちたづねな 〔巻二十・四四六八〕 大伴家持
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
自分の恋しい女が燈火のもとにいて、嬉しそうににこにこしていた時の、何ともいえぬ美しく耀かがやくような現身うつせみ即ちからだそのものの女が、今おもかげに立って来ている、というのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
現身うつせみの常のことばとおもへどもぎてし聞けば心まどひぬ (同・二九六一)
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)