狼籍ろうぜき)” の例文
たとひ自らは、竿を執らざるにせよ、快き気もせざれば、間もなく此処を去りしが、観音堂手前に到りて、また一の狼籍ろうぜきたる様を目撃せり。
東京市騒擾中の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
そしてものも言わずにランプ室に躍り込んだわたし達は、とうとうそこでほんとうに化け物の狼籍ろうぜきの跡を見たのだった。
灯台鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
茶屋小屋の押し借りするなぞ、狼籍ろうぜきの限りを尽して身の置き処無きまゝに、此程ひそかに御帰国ありし趣に候。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「だいぶ狼籍ろうぜきだね」と云いながら紅溜べにだめの膳を廊下へ出す。黒塗の飯櫃めしびつを出す。土瓶どびんまで運び出して置いて
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
狼籍ろうぜきたりし竹の皮も紙屑も何時いつの間にかはきられて、水うちたる煉瓦の赤きが上に、青海波せいかいはを描きたる箒目ほうきめあと清く、店の日除ひよけや、路ゆく人の浴衣ゆかたや、見るものことごとく白きが中へ
銀座の朝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
伊達の家来は狼籍ろうぜきに近き振舞と支え立てせんとした。制して制さるる男共であればこそ、右と左へ伊達の家来を押退け押飛ばして、たてに取る門の扉をもメリメリと押破った。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
腹の上で筋斗とんぼを切る、鳩尾みぞおちを蹴っ飛ばす、寝巻のすそ雉猫きじねこを押し込むという乱暴狼籍ろうぜき
一、軍勢於味方地乱妨狼籍ろうぜきたるべき一銭切事。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
巻烟草まきたばこの吸殻さては紙屑なんどの狼籍ろうぜきたるを踏みて、眠れる銀座の大通にたたずめば、ここが首府みやこの中央かと疑わるるばかりに、一種荒凉の感を覚うれど、夜のころもの次第にうすくかつげて
銀座の朝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)