狼烟のろし)” の例文
時に若旦那様はまだお帰りになりませんか。わしは若旦那のお帰りには花火を沢山げべいと思って去年から狼烟のろしを十三本こしらえました。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
佃島つくだじまでは例年の通り狼烟のろし稽古けいこの始まる頃とて、夕涼かたがたそれをば見物に出掛ける屋根船猪牙舟ちょきぶねは秋の木葉このはの散る如く河面かわもせに漂っていると
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
銀鼠ぎんねずみの空に、くっきりとあかく染め抜かれたアドバルーンの文字が、勝利の狼烟のろしのように、たかだかとあがっているのだ!
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
海津城の高坂昌信は、狼烟のろしに依って急を甲府に伝え、別に騎馬の使を立てて、馬を替えつつ急報した。自らは、城濠を深くして、死守の決心をなした。
川中島合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
いつわって城を出た馬遵は、城外三十里ほども来ると、後ろに狼烟のろしを見たので、すぐ全軍を引っ返してきた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
群集に誘はれて余等(独逸人ドイツじん某と此の通信員とだ)も前へと進んだ、行けば行く程人気はたつみ上つて、其処にも此処にも万歳の声が聞え、狼烟のろしがしつきりなく上る
露都雑記 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
彼奴きゃつは、おれたちのところから、カンガルーを何頭、盗んでいったかわからない。その代金も、ここで一しょにはらわせることにしよう。それ、太鼓たいこを打て、狼烟のろしをあげろ
それは望楼から打揚げた狼烟のろしであった。シュルシュルシュルと火鼠のような光が空へ走る。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「かしこまりました。——こよいの夜半から明け方までの間に、お城を出、河を越えて、首尾よく敵の眼をくらまして脱出できましたら、雁峰山がんぽうざんの頂から、狼烟のろしをあげて合図いたしまする」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、明けてひるすこし前、かねて約束の雁峰山がんぽうざんの上から、彼の手によって揚げられた狼烟のろしは、まさしく天をつらぬいた。城兵五百の歓喜と涙のひとみに、その煙と空は、いかにうるわしく見えたろうか。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)