牡丹色ぼたんいろ)” の例文
「お母ちゃん、お手々が冷たい、お手々がちんちんする」と言って、れて牡丹色ぼたんいろになった両手を母さん狐の前にさしだしました。
手袋を買いに (新字新仮名) / 新美南吉(著)
侍はまだうら若い男で、背に大太刀を負っているのと、牡丹色ぼたんいろ舶載地はくさいじの武者羽織を着ているていがひどく派手やかであった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
湯に入っていると牡丹色ぼたんいろ仕扱しごきを、手の届かぬところへ隠されなどして、お庄は帯取り裸のまま電燈の下に縮まっていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
いかだかづらの牡丹色ぼたんいろの花ざかりの別荘もあれば、テニスコートのまはりに、ミモザを植ゑてあるところもある。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
淡い牡丹色ぼたんいろのぼやけたような毛糸で、私はそれに、コバルトブルウの糸を足して、セエタにするつもりなのだ。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
時刻は朝六時、あたりは霧のために見とおしがきかず、城のある亀形山も見えないが、頭上にはひとところ、朝日をうつした雲が、明るい牡丹色ぼたんいろに染まっていた。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
牡丹色ぼたんいろの茎が光る。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
階下では、菅子が、牡丹色ぼたんいろのジャケツに黒のジャアジイのスカートをはいて、横坐りになったままで
泣虫小僧 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
その幌にくるまれた牡丹色ぼたんいろのビロウドのクッションには盛装した石炭屋の夫人マダム高瀬槙子と、めいの奈都子とが、ほッと、蒼白いおののきから救われた顔をしていたのである。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
棚雲のふちを染めていたまぶしいほどの金色は、華やかな紅炎から牡丹色ぼたんいろに変り、やがて紫色になると、中天に一つはなれた雲が、残照を一点に集めるかのように、いっとき明るい橙色だいだいいろに輝いたが
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
小舟から見ていると、牡丹色ぼたんいろの武者羽織は、すぐ町中のほこりにかくれてしまった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
春さき、牡丹色ぼたんいろの花が咲いた躑躅を思ひ出して、昔のことが、まるで昨日のやうに思へた。猫は暫くしてから、のそのそとものうげに垣根のそばの、枇杷びはの木の下をくゞつて外へ出て行つた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
棚雲のふちを染めていたまぶしいほどの金色は、華やかな紅炎から牡丹色ぼたんいろに変り、やがて紫色になると、中天に一つはなれた雲が、残照を一点に集めるかのように、いっとき明るい橙色だいだいいろに輝いたが
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)