もど)” の例文
彼はもはや凝然じっとしていられなくなったように、もどかしげな足取りで室内を歩きはじめたが、突然立ち止って、数秒間突っ立ったままで考えはじめた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
彼女は今大きな椅子の肱掛けに手をおいていたが、以前の彼女は入って来るなりもどかしそうに、その椅子へ手提袋てさげ暖手套てぶくろを投げだしたものであったのだ。
ふみたば (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「あッ、あの、喬之助さまが……」ひェイッ! とおどろくと同時に、木戸を押しあける間ももどかしく、園絵は、お絃を突きのけるように背後うしろの駕籠へ駈け寄って
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
『何で御座いますか、私に出來る事なら……。』と智惠子は何時になくもどかし相な顏をした。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
といっても、暗さと静寂しじまに対するあの不思議な恐怖が盛りかえして来たのではない。彼は今、賭博者が切り札を出す前にせわしく指先でいじくらずにいられないようなもどかしさを感じているのだ。
空家 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)