瀬戸内せとうち)” の例文
二人はそれぎり大井を閑却かんきゃくして、嵐山あらしやまの桜はまだ早かろうの、瀬戸内せとうちの汽船は面白かろうのと、春めいた旅の話へ乗り換えてしまった。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
叔父の家は丘のふもとにあり、近郊には樹林多く、川あり泉あり池あり、そしてほど遠からぬ所に瀬戸内せとうち内海の入江がある。
少年の悲哀 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
船に乗る時には十分に機械を調べて受取ったつもりだったが、推進機スクリュウまでブンなぐっていなかったのが運の尽きだった。尤も瀬戸内せとうちだから助かったもんだ。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ほんの海を一つ越えた瀬戸内せとうちの島へ渡ったばかりで、なんだか馬鹿にはるばると来たような心地がする。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
瀬戸内せとうちの船頭にまで、ふかく恐れられているらしいことを、あらためて、尊氏はまたこの日にも知った。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
船は今瀬戸内せとうちのような狭い内海を動揺もなく進んでいた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
瀬戸内せとうちには、村上、来島くるしま一族の水軍も味方にひかえ、大坂の本願寺衆とはかたく結び、摂津せっつそのほか所在の内応も少なくない。なんで元就もとなり公以来の固い地盤じばんゆるぎでもするものか。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
叔父の家は丘のふもとに在り、近郊には樹林多く、川あり泉あり池あり、そして程遠からぬ處に瀬戸内せとうち々海の入江がある。山にも野にも林にもたににも海にも川にも僕は不自由をなかつたのである。
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
それらの後顧こうこには、さらさら、ご懸念けねんなく、瀬戸内せとうち、山陽、山陰の軍路に大捷たいしょうをおさめられて、やがてれの都入りの日を、鶴首かくしゅ、お待ち申しあげております……とも、手紙の末尾には
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すなわち毛利軍の独壇場どくだんじょうともいうべき瀬戸内せとうちの海上権にものをいわせて中国沿岸は元より大坂から芸州げいしゅうにわたる間には、きょうこのごろその水軍たる大小の兵船がわが物顔に監視かんしの眼をひからせて
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、防禦をかため、四国の長曾我部ちょうそかべ瀬戸内せとうちの海賊たちに
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)