そそ)” の例文
ことわざにこれあり曰く、牛食はそそぐがごとく羊食は焼くがごとし。これけだし生殺の気しかるを致せり、この説『孟子』の一章を註すべし。
狭山はやがて銚子ちようしを取りて、一箇ひとつの茶碗に酒をそそげば、お静は目を閉ぢ、合掌して、聞えぬほどの忍音しのびね
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
元義の熱情は彼の不平と共にそそぎ出されて時に狂態を演ぜし事なきにあらざるも、元来彼は堅固なる信仰と超絶せる識見の上に立ちて自己の主義を守るを本分としたる者にして
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
不図又文三の言葉じりから燃出して以前にも立優たちまさる火勢、黒烟くろけぶり焔々えんえんと顔にみなぎるところを見てはとても鎮火しそうも無かッたのも、文三がすみませぬの水を斟尽くみつくしてそそぎかけたので次第々々に下火になって
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
フロッシュ(ブランデルの頭の上に一杯の酒をそそぐ。)
天魔まず山羊を殺してその血を葡萄の根にそそぎ、次に獅子、最後に豕の血を澆いだ。それから人チョビッと酒を飲むと面白くなって跳ね舞わる事山羊児に異ならず。
海上風波の難にへる時、若干そくばくの油を取りて航路にそそげば、なみくしくもたちましづまりて、船は九死をづべしとよ。今この如何いかにともべからざる乱脈の座中をば、その油の勢力をもて支配せる女王によおうあり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)