淡蒼うすあお)” の例文
涙ににじんだ眼をあげて何の気なく西の空をながめると、冬の日は早く牛込うしごめの高台の彼方かなたに落ちて、淡蒼うすあおく晴れ渡った寒空には、姿を没した夕陽ゆうひ名残なごりが大きな
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
がったんがったんとだるい音を立てて水車が一日廻っていたが、小雨こさめなどの降る日には、そこいらの杉木立ちの隙に藁家わらやから立ち昇る煙が、淡蒼うすあおく湿気のある空気にけ込んで
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
雪の深い関ヶ原を江州ごうしゅうの方に出抜けると、平濶へいかつな野路の果てに遠く太陽をまともに受けて淡蒼うすあお朝靄あさもやの中にかすんで見える比良ひら比叡ひえいの山々が湖西に空に連らなっているのも
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
間接に来る照明が淡蒼うすあおい光を漂わし、クションに腰かけて、アルコオル分の少ないカクテルを一杯作ってもらって、ちびちびめていると、自然に神経のしずまるような気分のバアであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
俥があったら乗ろうと思ったが、提灯ちょうちんの影らしいものすら見当らなかった。見附みつけの方には、淡蒼うすあおい柳の蔭に停車場ステイションの明りが見えていたが、そんなところへ迂闊うかつに入り込んで行くことも出来なかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)