かぎ)” の例文
かぎりの知れない鼠色の天地は、眼のあたり尺寸の間に限られて、五、六歩の先に立った南日君の姿さえ掻き消すように失せている。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
わが手で、わが船を造り出して、このかぎりなき大洋を横ぎって、まだ知られざる国に渡り、その風土と文物とを究め尽したいという欲望。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
形質あるものは大なりといえども限りありて、必ず滅す。形質なきものは微なりといえどもかぎりなくして、また伝う
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
彼女はその赤ん坊をごく静かにゆすぶりながら、ぼんやり見とれていると、ふいに、今までのいかりも憎しみも一つのかぎりない温情の中へ溶けこんで行った。
小さきもの (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
この辺から、日本は世界史の舞台に登場したわけで、ロンドン及びワシントンの軍縮会議などは、日本のかぎりなき発展に対する欧米列強の嫉視的工作であると云つてもいゝと思ふ。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
詩人は人類を無差別ヂスインテレステツドに批判するものなり、「神聖」も、「純潔」も或一定の尺度を以て測量すべきものにあらず、何処どこまでもきたる人間として観察すべきものなり、「時」と「塲所」とにかぎられて
情熱 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
またもかぎりなく四通八達のところへ投げ出されねばならなくなった机竜之助というものの運命の悪戯いたずらのほども、いいかげんにしなければならぬ。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「それは、かとりの海——この琵琶湖のことじゃありません、琵琶湖は大きいのなんのと言っても、かぎりの知れた湖です、かとりは海ですからね」
かぎりも知れぬ広い原に、野火が燃え出して、右往左往に人が逃げ走る光景を想像するだけであります。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
上求菩提下化衆生の菩薩ぼさつの地位であり、また天上と地獄との間の人間の立場でもある、人生は旅である、旅は無限である、行けども行けどもかぎりというものは無いのである
「峠」という字 (新字新仮名) / 中里介山(著)
習慣上からすたらないのだから、急にとがめようとも思わないが、本来、わたしはもう疾うに昔の殿様を廃業している、こうしてかぎり知られぬ海上をうろつく、これが本当の浪人じゃ
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
古代の人は、海道に近く旅路を急ぎながら、海の波に足を洗わせながら、このかぎりなく広い海をながめて通ったものでしょう。そこでたまらなく旅路の哀れというものを感じたのでしょう。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かぎりないこの海を眺めるのが好きです、アルバトロスもいます、鯨もお友達です、明日は仙台石巻へ着けば、そこに七兵衛おやじも待っていましょう、田山先生も乗込んでいらっしゃるでしょう
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
更に東へ眼を転ずると、そこはかぎりのない海です。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)