あま)” の例文
如何となれば世間往々旧時の教育法に恋々する者あるをもって、新教育の未だあまねからざるを知るべければなり。
政事と教育と分離すべし (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
虹の松原にちなんで名を虹汀こうていと改め、八景を選んで筆紙をべ、自ら版に起してあまねく江湖こうこわかたん事をおもへり。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
高い日があおい所を目の届くかぎり照らした。余はその射返いかえしの大地にあまねき内にしんとしてひとぬくもった。そうして眼の前に群がる無数の赤蜻蛉あかとんぼを見た。そうして日記に書いた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
下手物げてもの趣味のない音楽と言ってもまた面白かろう。もし幾分の哀愁がありとすれば、それはあまねからざるなき幸福感に必然する、一脈の「あわれ」であり、完全なるものの「物悲しさ」である。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
彼の心は一茎の草花にもあまねき恵みと美との自然の大慈悲心に融合するに至り、ここに微妙なる心情の変化は、遂に彼をして其いとふべき没人情の都塵の中にあり乍ら、猶且なほかつ枯れざるの花を胸に咲かせ
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「……無論……むろん純粋の学術研究を目的としているんだよ。精神病の治療というものはこうするものだ……という事を、あまねく全世界のヘゲタレ学者たちに……」
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ゴールドスミスは一管いつくわんの笛を帯びて、あまねく天下を放浪したり。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
官衙かんがや学校へあまねく配布されたばかりでなく、自分自身で木魚をたたいて、その祭文歌を唄いながら、その祭文歌を印刷したパンフレットを民衆に頒布はんぷしてわられたのです
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)