水面みずも)” の例文
簗小屋を這い出すなり高徳は息をつめてなわての方を凝視した。津山川の水面みずももまだわかたぬほどな霞だし、空は白みかけたばかりだった。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さざなみも立てずにどんよりと、流れるともなく流れている、そういう水面みずもには月光ばかりが銀の延板のそれかのように、平らに輝いているばかりであった。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
なかでも、ちいさな子供こどもたちは、毎日まいにちれをなして、水面みずもかび、太陽たいようらす真下ましたを、縦横じゅうおうに、おもいのままに、金色きんいろのさざなみをてておよいでいました。
なまずとあざみの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
光りはほり水面みずもにまでも散りこぼれて、二本松十万石の霞ヶ城は、いち面に只ひと色の青だった。
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
仮住まいして水面みずもに、何ものかを狙うように羽搏はばたきをするのを見たら、若鮎の群れは、もう丸い小石のならぶ瀬際をひたのぼりに、上流へのぼっていると思ってよろしい。
楢の若葉 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
ほり唐橋からはしに立って、彼は水面みずもを見ていた。ぶつぶつと泡だつ潮が、水門の方から上げてくる。水に押されるように、彼は岸に添ってあるいた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一学は、沈みこんでゆく水面みずものウキに気がついて、ひょいと、竿さおを上げた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
沼のはるか風上から、団々たる二つの火が、闇の水面みずもすべるように飛んで来る——あッと、立ち騒ぐまもなく、それは眼前に来ていた。二そうの小舟に枯れしばを山と積んだ大紅蓮ぐれんなのである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
唯七はペッと水面みずも生唾なまつばを吐いて、苦々しく、見ぬ振りを装っていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)