水煙みずけむり)” の例文
またたくうちに、渭水一帯の水煙みずけむりはことごとく陸地に移り、蜀兵は算を乱して、祁山きざんの裾からまたその山ふところの陣営へ潰走してゆく。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
矢張やっぱ平地ひらちを歩いているつもりで片足を石垣の外に踏み出すや否や、アッと云う間もなく水煙みずけむりを立てて落ち込んでドンドン川下へ流れて行った。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
するとしばらくして向うの岸へ、藤蔓ふじづるを編んだ桟橋かけはしが、水煙みずけむりと雨のしぶきとの中に、危く懸っている所へ出た。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
水煙みずけむりを立てて沈んでから皆一度は浮き上る。その時には助かろうとする本能の心よりほか何もない。手当り次第に水をつかむ、水を打つ、あえぐ、うめく、もがく。
身投げ救助業 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
思出の記は一瞬いっしゅん水煙みずけむりを立てゝ印度洋の底深そこふかく沈んで往ったようであったが、彼小人菊池慎太郎が果して往生おうじょうしたや否は疑問である。印度洋は妙に人を死にさそう処だ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
この時二人は身体からだに巻いてあった布を取って、各自てんでに綱を一本ずつ身体からだに結び付けますと、船の両側から一時に、水煙みずけむりを高く揚げて、真青な波の底に沈みました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
この時突然二頭の鹿が、もう暗くなった向うの松の下から、わずかに薄白うすじらんだ川の中へ、水煙みずけむりを立てておどりこんだ。そうしてつのを並べたまま、必死にこちらへ泳ぎ出した。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
源六は、その襟がみを両手にして、女を独占する勇躍の余力で、ズルズルと獄門橋、溝の際まで引きずって行き、そこでドボン! ——、と泥まじりの水煙みずけむりをあげましたが——。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼等は互にきそい合って、同じ河の流れにしても、幅の広い所を飛び越えようとした。時によると不運な若者は、焼太刀やきだちのように日を照り返した河の中へころげ落ちて、まばゆい水煙みずけむりを揚げる事もあった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
すぐ戸を開けて、水煙みずけむりひさしの下をながめ
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)