びつ)” の例文
「虫干しだ。——よろいびつやら矢束やたばやら。イヤ、持ち出してみると、思いのほか、少ないものよ」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うちはこの子ば抱いち、飯びつといっしょに二階に這いあがりました。停電で電気はつきやせん。ラジオも鳴らんごとなった。まっくらやみの中で、ごうごうと水の流るる音、材木が家にぶつかる音
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
びつに似た数個の箱を運んで上総国行徳地先から舟に乗って家来十人ばかりと共に所領の上州群馬郡三の倉の邸へ志し、次第に溯江して大利根に出で川俣、妻沼、尾島、本庄裏へと舟を漕ぎ上がり
岩魚 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
さっきの女の人がちゃぶ台にのせてある飯びつと汁鍋の蓋をとって
次郎物語:03 第三部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
徐寧は突ッ放して——「よくもわが家の宝、薄羽小札うすばこざねのよろいを盗み出しおったな。その朱革あかがわのよろいびつがここにあるからには、下手人はうぬに相違あるまい。さ、白状しろ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幕舎の隅へ眼をやって、そこのよろいびつ、衣裳箱などの前に立ち、大鎧を解いて、腹巻、陣座羽織の軽装にあらためている。——直義はもう黙って、兄の着がえを、後ろから手つだった。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
殿々とのとの、よろいびつとは、お身仕度とは、ご出馬のご用意にござりまするか」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ見るほどの暗い朝霧の中いちめんに、濛々もうもうと立ちけぶっている物の具きびしい騎馬剣槍けんそうを見るや、長門守はまた急いで邸内に引っ返し、よろいびつくつがえして、具足を着こみ、打物とって
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
家康は、いまし方、とばりのうちで、信雄とはなしこんでいたが、信雄が自陣へ帰ったあと、きょうもバチバチ遠くでする銃声を、そら耳に聞きながら、よろいびつの上の、論語ろんごをとって、黙読していた。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)