楢林ならばやし)” の例文
何でも森をはすに取って西北の地平線から西へかけて低いところにもしゃもしゃとえてる楢林ならばやしあたりまでを写して見ることに決めた。
郊外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
黄いろく色づき始めた野の楢林ならばやしから雨滴あまだれがぽたぽた落ちる。寺に帰ってみると、障子がすっかりはりかえられて、へやが明るくなっている。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
その前長崎に居る時には勿論もちろん蘭学の稽古をしたので、その稽古をした所は楢林ならばやしと云う和蘭オランダ通詞つうじうち、同じく楢林と云う医者のうち、それから石川桜所いしかわおうしょと云う蘭法らんぽう医師
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
向の楢林ならばやし——山梨の農夫が秣を刈集めている官有地の方角から、牝馬のいななく声が聞えて来る。やがて源の馬は胴震いして、鼻をうごめかして、勇しそうに嘶きました。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
うんくちという最後の村を過ぎてからも、ガソリン・カアはなおも千曲川にどこまでも沿ってゆくように走りつづけていたが、急に大きなカアブを描いて曲がりながら、楢林ならばやしかなんぞのなかを抜けると
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
自分は日あたりを避けて楢林ならばやしの中へと入り、下草したぐさを敷いて腰をろし、わが年少画家の後ろ姿を木立ちのひまからながめながら、煙草たばこに火をつけた。
小春 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
土手にはところどころ松原があったり渡船小屋わたしごやがあったり楢林ならばやしがあったり藁葺わらぶきの百姓家が見えたりした。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
楢林ならばやしは薄く黄ばみ、農家の周囲に立つ高いけやきは半ば落葉してその細い網のような枝を空にすかしている。
小春 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
二十四時間にその管下に集まらなければならない壮丁そうていたちは、父母妻子に別れを告げる暇もなく、あるは夕暮れの田舎道に、あるは停車場までの乗合馬車に、あるは楢林ならばやしの間の野の路に
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
その向こうは煙るような楢林ならばやしの灰色が連続した。
ネギ一束 (新字新仮名) / 田山花袋(著)