梨園りえん)” の例文
四日にして歌舞伎座盆興行の稽古となるやわれはここに榎本氏請人うけにんにて歌舞伎座へ証文を入れいよいよ梨園りえんの人とぞなりける。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
劇界に身を投じては伊井蓉峰ようほう帷幕いばくに参じたが、今や梨園りえんの名家たる市川左團次と握手して劇壇革新の烽火のろしを挙げた。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その過去の梨園りえんに落ち散る花びらを拾いあつめて、この一冊をなした。勿論、明治劇壇の正しい記録でなく、老いたる劇作家の昔話に過ぎないのである。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
やるつもりならやるもいいが江戸の梨園りえんの総管軸この成田屋の身内としてこれまで通り置くことは出来ぬ。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
明治二十九年の末に出版せられし坪内逍遥つぼうちしょうよう氏が『梨園りえん落葉おちば森鴎外もりおうがい氏が『月草つきぐさ』の二書をひもとけば当時諸家の企てし演劇改革の状況を知るにかたからず。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
文壇で「紅露」が併称された如く、梨園りえんでは「団菊」といわれていたが、この方は舞台の人であるから、幸いにして私はこの二巨人の顔や声音こわねを覚えている。
文壇昔ばなし (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
唐の天宝の末に、安禄山あんろくざんが乱をおこして、潼関どうかんの守りも敗れた。都の人びとも四方へ散乱した。梨園りえん弟子ていしのうちに笛師ふえしがあって、これも都を落ちて終南山しゅうなんざんの奥に隠れていた。