梅花うめ)” の例文
梅花うめはもう眼をる所に咲いていた。けれど山峡やまあいの冷気が肌身にみて、梅花に楽しむよりも、心は人里にばかりかれていた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どうじゃ範宴、きょうは、わしにいてこないか」陽が暖かくて、梅花うめかんばしい日であった。庭さきでもひろうように、慈円はかろく彼にすすめる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それからまた梅花うめの月ヶ瀬が近くにあるので、鶯のは雪の解けない頃から、雷鳴かみなりの多い季節まで絶えることはなく、その音色はまた、この山の水よりも清い。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
冬を越えた雪解ゆきげのあとは、通る旅人も稀れだし、この辺りまで、梅花うめを探りに来る者などは殆どない。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
月ヶ瀬の梅花うめはまだ浅い春だったが、自分の春は過ぎようとしている。女の二十五を越えては——。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(まだいるかどうか?)むしろ、立ち去っていることを祈りながら、七郎は梅花うめ樹蔭こかげをのぞいた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちる梅花うめも、樹洩こもも、土の香から燃える陽炎かげろうも、まこと御仏みほとけをつつむ後光のように見えました
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
梅花うめの多い城下である。錦小路のくら闇には、ほのかな香がうごいていた。町をまっ直ぐに突きぬけると、松の樹の間が青白く光っている。そして、ざあっとなみの階音が裾を吹いてくる。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不意に消魂けたたましい女の叫びが、如意輪寺裏の幽寂ゆうじゃくの梅林につんざいた。——もう散り際にあるもろ梅花うめは、それにおどろいたかのようにふんぷんと飛片ひへんを舞わせて、かぐわしい夕闇に白毫はくごうの光を交錯こうさくさせた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
裏庭の梅花うめはもうほころびかけていた。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
梅花うめが明るい。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)