枕上まくらがみ)” の例文
過るころ天地あめつちも砕けぬばかりのおどろ/\しき音して地ふるふに、枕上まくらがみ燈火ともしび倒れやせむと心許なく、臥したるままにやをら手を伸べつつ押さへぬ。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
そう思うておりますけに、あれから毎晩、腰から下、血だらけになった娘のお熊が枕上まくらがみに立ってサメザメと泣きまする
其の夜、左内が枕上まくらがみに人の来たる音しけるに、目さめて見れば、二五灯台とうだいもとに、ちひさげなる翁のゑみをふくみてれり。左内枕をあげて、ここに来るはそ。
枕上まくらがみの小卓の上に大型の扁平へんぺいなピストルが斜めに横たわり、そのわきの水飲みコップの、底にも器壁にも、白い粉薬らしいものがべとべとに着いているのが目についた。
B教授の死 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
粗末な板張りの座敷ではあるけれども、枕上まくらがみのところに仮りのとこが設けてあって、八幡大菩薩はちまんだいぼさつじくかゝっている。床脇とこわきに据えた持佛じぶつ厨子ずしには不動明王が安置してある。
土屋庄三郎昌春は、翌朝早く眼をますと枕上まくらがみへ眼をやった。紅巾がちゃんと置いてある。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
枕上まくらがみ経机きょうづくえを据え、線香を立てた。奈々子は死に顔美しく真に眠ってるようである。
奈々子 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
玄関にある下駄が皆女物で子規のらしいのが見えぬのが先ず胸にこたえた。外出と云う事は夢の外ないであろう。枕上まくらがみのしきを隔てて座を与えられた。初対面の挨拶もすんであたりを見廻した。
根岸庵を訪う記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)