東南風いなさ)” の例文
風が東南風いなさとみえて、寒色かんしょくの海の青さもさまでには覚えない。ざこ場の小屋にも人影がなく、海草や貝がらや、かにの甲羅などがに乾いていた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
始めは鴨居から西北とりで一里半も沖へ出たろう、あの通り烈しい風であったが風が東南風いなさに変って元の所へ来たのだ、鴨居よりはと寄っているが、師匠此所こゝ真堀村まほりむらちげえねえ
どうかするとそんな季節きせつ東南風いなさいてふるへるほどえることがある。勘次かんじえがさはつたのであつたらうか心持こゝろもちわるいというてからもどつてるとそれつまくらあがらぬやうになつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ともすると、この穏かな四月の陽ざしと温い東南風いなさの中に、人生の小安をぬすんで楽しみたくなるような気持ちが、自分にも多分にあることを数右衛門は気がついていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)