朝暾あさひ)” の例文
気がつくと、もう黄色い朝暾あさひに浴びた末弟の虎吉が、若々しい声と一緒にニコニコした円顔まるがおを窓からのぞかせていた。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
この句は前の太祇の句と反対に、夜明方の冬木立を言ったもので、朝暾あさひが赤い色をして天地を染めている中に、一叢ひとむらの冬木立が立っているというのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
そしてそれから何分かの後私は、例の港を俯瞰みおろす部屋でうららかな朝暾あさひを浴びながらモネス探偵と向い合っていた。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
朝日は間もなくファウルホルンの一角から表われる、団々たる朝暾あさひが岩角に登るや、空はエーテルのように引火して一斉に白光と化してしまう、もう湖水の方へはまともに顔も向けられない。
遠くの愛宕あたごから西山の一帯は朝暾あさひを浴びて淡い藍色あいいろに染めなされている。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
何という図太さだ! 何という「働く者」の図太さだ‼ 黄色い朝暾あさひのなかに音をたてて崩れてゆく足許あしもと霜柱しもばしらをみつめながら、鷲尾は呆然ぼうぜんとたちすくんでしまった。——
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
南半球七月初旬のうららかな朝暾あさひを受けて微笑みつつ穏やかに美しく楽しげに、見果てぬ永遠の夢を語り合いながら接吻くちづけせんばかり相抱き合って、雨の中に眠っているのであった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
暖かい、冬の朝暾あさひを映して、若い力のうちに動いている何物かが、利平を撃った。
(新字新仮名) / 徳永直(著)
昨夜藪蚊やぶかに食われて碌々ろくろく眠ってない顔に、まぶしい朝暾あさひが当ってくると、たまらなく眠くなってきて……娘たちにも私の疲れているのが、わかるのでしょう、一眠りして行けと、勧めてくれるのです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)