書中しょちゅう)” の例文
渓流たにがわの音が遠く聞ゆるけれど、二人の耳には入らない。ひとりの心は書中しょちゅうに奪われ、ひとりは何事か深く思考おもいに沈んでいる。
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
突然私の実家から手紙で、従兄いとこが死んだことを知らして来た、書中しょちゅうにある死んだ日や刻限が、恰度ちょうど私がけた夏菊のしおれた時に符合するので、いまだに自分は不思議の感にえぬのである。
鬼無菊 (新字新仮名) / 北村四海(著)
そうしてそのかんがえはただ一瞬間しゅんかんにしてえた。昨日きのうんだ書中しょちゅううつくしい鹿しかむれが、自分じぶんそばとおってったようにかれにはえた。こんどは農婦ひゃくしょうおんな書留かきとめ郵便ゆうびんって、それを自分じぶん突出つきだした。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)