景仰けいこう)” の例文
しかし、ただ困るのは、民間の余りな彼への景仰けいこうは、時には度がすぎて、孔明のすべてを、ことごとく神仙視してしまうことである。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『太平記』の繙読はんどく藤原藤房ふじわらのふじふさの生涯について景仰けいこうの念を起させたに過ぎない。わたくしはそもそもかくの如き観念をいずこから学び得たのであろうか。
西瓜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
傷けないばかりではない、一層明確にしたように感ぜられる。大石というものに対する、純一が景仰けいこう畏怖いふとの或る混合の感じが明確になったのである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そして右はこれら景仰けいこうせられた一流学者のした事でもあるので、その後多くの学者は皆翕然きゅうぜんとしてその説に雷同し、杜若はヤブミョウガであるとしてあえてこれを疑うものはほとんど無かった。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
もっともそれくらいな景仰けいこうをあつめていなければ、それらの最愛な良人や、ふたりとない子を、自分の馬前で死を競わせることはできなかったに違いない。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし古人を景仰けいこうするものは、その苗裔びょうえいがどうなったかということを問わずにはいられない。そこでわたくしは既に抽斎の生涯をしるおわったが、なお筆を投ずるに忍びない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
されば守るにその人なき家の内何となく物淋しく先生独り令息俊郎としお和郎かずおの両君と静に小鳥を飼ひてたのしみとせられしさまいかにも文学者らしく見えて一際ひときわわれをして景仰けいこうの念を深からしめしなり。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
今日のごとくよごされていなかった。人間の天職のうちでいちばん遠大な理想と、広い仁愛を奉行し得る職として、諸人は常にその職能に景仰けいこうと信望をかけていた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど、源氏系でも平家系でも、縁故などはどうでもよい一士卒に過ぎない飯田五郎が、敵方に身を投じて来たのは、頼朝という人間のみに景仰けいこうを持ったわけではない。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武家のまわりには知らないこの一偉人につよい景仰けいこうを禁じえなかったにちがいない。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わけてかれがもっとも景仰けいこうしておかないひとは、楠木正成くすのきまさしげであった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)