普化ふけ)” の例文
でなければ、まだ五年も十年も、いや、あるいは死ぬまでも、一かんの竹にわびしい心を託して普化ふけの旅をつづけて終るつもりであった。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
下総しもうさの一月寺、京都の明暗寺と相並んで、普化ふけ宗門の由緒ある寺。あれをあのままにしておくのは惜しいと、病床にある父が、幾たびその感慨を洩らしたか知れない。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
(ああ、尺八を持ち、袈裟けさはかけているが、まだまだ、おれは普化ふけの澄明な悟道には遠いものだ。露身風体のさとりにはいつなれるのやら?)
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もっとも私に、臨済りんざいと、普化ふけとの、消息を教えて下すって、臨済録の『勘弁』というところにある『ただ空中にれいの響、隠々いんいんとして去るを聞く』あれが鈴慕の極意ごくいだよ、と教えて下すった方はありました。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
普化ふけの作法として、とるべからざる天蓋をとったのは、間髪かんはつを思う心支度である筈だが、それが、白刃しらはを渡す宣言とは思えぬほど、あくまで神妙に見せて脱いだのだった。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここの旅籠はたごで、二人は入城の身支度をこしらえた。呉用は白地に黒いふちとりの道服どうふくに、道者頭巾どうじゃずきんをかぶり、普化ふけまがいの銅鈴どうれいを片手に持ち、片手にはあかざの杖をついて出る——。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
普化ふけ宗衣しゅうえを着ていれば、髪も切下きりさげでなければならぬが、黒紬くろつむぎ素袷すあわせを着流して、髪だけがそのままでは、なんとなく気がさすし、そこらをウロついている原士はらしの眼を避ける上にも
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや、一片の風流子の心事と、法月弦之丞の心に波うつものとは、だいなるへだてがある筈だ。したがって、同じ竹枝ちくしすさびにしても、その訴えるところは、ちまたや僧院の普化ふけたちとは必然なちがいをもつ。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)