昼霞ひるがすみ)” の例文
かなりはなれた渓流の向こうに、むらさきばんだ昼霞ひるがすみをたなびかせ、なにごとも知らぬさまにそびえている山のかたちこそ、小太郎山ではないか。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うぐいす洞然どうぜんとして昼霞ひるがすみ
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
そこから小手をかざしてみると、うッすらとした昼霞ひるがすみのあなたに、若狭わかさ三国山みくにやま敦賀つるが乗鞍のりくら北近江きたおうみの山々などがまゆにせっしてそびえている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遙か、遙か、熊本の街の西南——昼霞ひるがすみと空のぼかされた果てを、いつまでも、いつまでも、凝視しているのであった。
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
江戸の屋根は、女のつつましさへ何かそそるように、ほの紅い昼霞ひるがすみにぼかされていて、空は飽くまであおかった。
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
坂の途中の曲り角に立ちどまって、大和やまとの春の昼霞ひるがすみ恍惚こうこつと眼を細めていたり、辺りの老梅の半開の花をでたりしていて、なかなか上って来ないのである。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とろんと、眠たげな眼を上げると、昼霞ひるがすみのような薄雲が、時々午頃ひるごろの陽をつつんだり、拭いたりしていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)