擦抜すりぬ)” の例文
旧字:擦拔
親らしい男は馬をいて、其小供の群に声を掛けて通り、姉らしい若い女は細帯を巻付けたまゝで、いそ/\と二人の側を影のやうに擦抜すりぬけた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
花売はなうりは、たもとめた花片はなびらおしやはらはら、そでを胸に引合せ、身を細くして、高坂の体を横に擦抜すりぬけたその片足もむぐらの中、路はさばかり狭いのである。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たまに礼をする者があつても、行違ふ時はこそこそと擦抜すりぬけるやうにして行つた。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
乗客はいづれもらちの中へと急いだ。さかん黒烟くろけぶりを揚げて直江津の方角から上つて来た列車は豊野停車場ステーションの前で停つた。高柳は逸早いちはや群集ひとごみの中を擦抜すりぬけて、一室のを開けて入る。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)