捲毛まきげ)” の例文
病身なのであろうか。なぜなら顔のはだは、わくをなしている捲毛まきげの金いろの黒味と、ぞうげのように白くうつり合っているから。
かがやく金髪の捲毛まきげとを持っていた——その頭が中空にさまよっていた、かの虫のように彼女を一心に見詰めているのを知った。
はだは白魚のようにきとおり、黒瞳こくとうは夢見るように大きく見開かれ、額にかかる捲毛まきげはとの胸毛のように柔らかであった。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
小さな手をおとなしく前に重ねて、捲毛まきげを後に搖りやつて、眼を天井てんじやうの方にあげ、何か歌劇の中の歌を唄ひはじめた。それは棄てられた女の歌だつた。
櫛の歯をハーモニカのように口にこすって、つばをつけると、母は私の額の上の捲毛まきげをなでつけて云った。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
夢みがちな二十歳はたち前後の若者が芝居の帰り道に、スペインの街や夜や、額に捲毛まきげをたらしてギターをかかえた素晴らしい女の姿などを胸に描きながら歩いている時
捲毛まきげのカナリヤのかごの側で、庸三はよく籐椅子とういすに腰かけながら、あまり好きでないこの小禽ことりの動作を見守っていたものだが、いくらかの潜在的な予感もあったので
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
けれどこの時ほど父の姿がわたしに、すらりと格好かっこうよく見えたこともなかったし、その灰色の帽子が、こころもち薄くなりかけた捲毛まきげの上に、すっきり合って見えたこともなかった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
女どもは、彼の額にある捲毛まきげで、それが牡牛だということを見分ける。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
とまり木の捲毛まきげカナリヤ聲搖らず冬をこごえて眼はあけてをり
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
濃い頭の捲毛まきげだけが兄弟似寄つてゐた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
ひたすらに愛する者の捲毛まきげにすがれ。
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
「可愛いゝお孃さん! 長い捲毛まきげ、青い眼、顏の色艷いろつやのいゝこと、まるでいたやうだわ。ベシーさん。あたしは、夕飯にはウェルス・ラビットを食べたいわね。」
蒼白そうはくで、上品に表情のとざされた顔、蜜いろの捲毛まきげにとりまかれた顔、まっすぐにとおった鼻とかわいい口をもった顔、やさしい神々しいまじめさを浮かべている顔——かれの顔は
とまり木の捲毛まきげカナリヤ声揺らず冬をこごえて眼はあけてをり
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
兩方の顳顬こめかみには、暗い褐色かつしよくの髮がその時の流行のやうに、——當時は撫でつけて捲いたのや、長い捲毛まきげは流行してゐなかつた——丸みをつけた捲毛でふさになつてゐた。