拍車はくしゃ)” の例文
されば始めは格別将来の目算もなくただ好きにまかせて一生懸命けんめいに技をみがいたのであろうが天稟てんぴんの才能に熱心が拍車はくしゃをかけたので
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼の信じて立てた方針では、完成文化魚のキャリコとか秋錦とかにもう一つ異種の交媒の拍車はくしゃをかけて理想魚を作るつもりだった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
やがて中佐は、荒田老と鈴田のあとについて、ふきあげた板張りの廊下ろうかに長靴の拍車はくしゃの音をひびかせながら、塾長室のほうに歩きだした。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
その軽騎兵は、昨日見かけた青年たちの一人であることにわたしは気づいたが、にっこり笑って一礼する拍子ひょうしに、拍車はくしゃを打合せて、サーベルの釣輪つりわをがちゃりと鳴らした。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
夫人は躊躇ちゅうちょしている信一郎の心に、拍車はくしゃを加えるように、やゝ高飛車にそう云った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
しかも、楠木勢の全力は、その機に、後ろから拍車はくしゃをかけて来たのだった。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
刃音はおと拍車はくしゃの 音もなし
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)
さらにそれが大河無門という人物の存在によって拍車はくしゃをかけられているという複雑な事情など、とうてい思いもおよばなかったことなのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
外套がいとうのついた軽騎兵けいきへいの軍服を着て、あわをふいた黒馬に乗っている。駿馬しゅんめは首を振り振り、鼻息を立てて、おどりはねている。乗り手は、手綱たづなを引いたり、拍車はくしゃを当てたり、大騒おおさわぎだ。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
それに拍車はくしゃをかけたのが、道江の来訪と、それにつづく恭一との手紙のやりとりの間に感じた心の動揺どうようであった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
ある日のこと、父は久方ぶりの上機嫌じょうきげんで、わたしの部屋へ入ってきた。彼はこれから馬で出かけるところで、ちゃんと拍車はくしゃをつけていた。わたしは、一緒いっしょに連れて行って下さいとせがんだ。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)