とりしば)” の例文
かれら、お沢を押取おっとり込めて、そのなせる事、神職のげんの如し。両手をとりしばり、腰を押して、正面に、看客かんかくにその姿を露呈す。——
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
佐世保の湾頭には「今度この節国のため、遠く離れてでて行く」の離歌にはらわたを断ち、宣戦の大詔に腕をとりしばり、威海衛の砲撃に初めて火の洗礼を授けられ
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
得三はかねてかくあらんと用意したる、弓のおれを振上ぐれば老婆はお藤の手をとりしばりぬ。はっしとたれて悲鳴を上げ
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「や、や、狼藉ろうぜき。」と驚きたまう老婦人の両の御手おんてを左右よりとりしばりて勿体無くも引下ろせば、一人は背後うしろより抱竦だきすくめ、他は塩ッ辛き手拭を口に捻込ねじこ猿轡さるぐつわ
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ちょっ、面倒だ。」とと寄りて、門番の両手をとりしばるは、昔関口流皆伝の柔術家やわらとり、今零落して屠犬児、弥陀平みだへいというは世を忍ぶ仮の名にて、本名あるべき親仁おやじなり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
といまはいらてるさまにて、はたとばかり掻退かいのけたる、雪はすべり落ちて、三ツ四ツに砕けたるを、少年のあなやとひろひて、拳を固めて掴むと見えし、血の色颯と頬を染めて、右手めてに貴女の手をとりしば
紫陽花 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)